Art of Tap Tuning [DVD] [Import]には、ギブソンマンドリンの父 Loarの書いた響板についての1925年の記事が収録されています。
昨日は、3時間かけて青梅まで出張していたので、電車の中で、上の本を読んでいました。
Loarは、トーンバー(バイオリンではバスバー)は、響板の分割振動を防ぎ、全体が一体として動くために必要だと考えています。ただし、分割振動もストラディバリの響板のように、板厚分布を適切に取り、振動の節を制御することで、音色の特徴を出すと書いています。
彼は、ボディのヘルムホルツ共振周波数と、響板の厚さ分布を調べていますが、響板の振動を調査するために、響板の各部にスプルースの棒を介してセンサーで振動を計測したり、ゆっくりと振動する響板を顕微鏡で見たりと、かなり色々な手段で特性を測っていたことが書かれていました。
板は一枚ずつすべて違う特性を持っているので、彼は、製作するマンドリン1台1台すべてに丁寧なチューニングをしていたことと思います。
バンジョーは、響板を自分で張るので、バンジョーリストたちには、その張りだけでなく、高音側と低音側で張りの強さを微妙に変化させて、音質の違いを聞くようにと薦めています。
1925年にこれだけのことをやっていた製作家は、そんなに多くはなかったのではないかと思います。F5が高い評価を得ているのは、ある意味当然だったのかもしれません。
翻って、Siminoffの本文では、タップチューニングで望ましい共振周波数を得るプロセスを4つのステップで解説しています。
- 望むスタイルと製作方法で、テスト楽器を製作する
- 望ましい音になるまで、サウンドホールのサイズ、形、位置や、響板の硬さ、木の材質、響板や裏板の厚さ、ブレースやトーンバーのサイズや形を変更して実験する。
- エアチャンバーの共振周波数を測定する
- 裏板を外し、裏板と響板のすべてのブレースやトーンバーの共振周波数を測定する
ということらしいです。楽器を作る人が全員これをやるわけにはいかないので、本には、Siminoffの経験によるタップチューニングの周波数がバイオリン、マンドリンを含む12の楽器について示されています。
ハッチンスたちの手法との違いは、フリープレートの周波数ではなく、リムに接着された状態での測定ということでしょう。Siminoff自身が書いているように、フリープレートと接着されたプレートの間にはある程度の共振周波数の相関があるので、ハッチンスたちの手法でも、悪くはないような気もします。
ところで、付録には、もうひとつ、Loarは、マンドリンを当時のコンサートピッチ(430.6Hz)をチューニングしているはずで、現在の440とのチューニングがどう影響するのかという話が出ています。これも、ストラディバリの時代と現代の違いで、楽器のチューニングへの影響があるはずであり、興味深い話題です。